'10.8. 地球時代の選択肢

第18回

南アフリカの高校の「コミュニティ・サービス」

吉村峰子(南アフリカ・ダーバン在住)                        

娘の翔子の高校は私立の女子高で、全寮制ではないものの、多くの学生が寮生活を送ります。彼女の場合も、自宅から60キロの距離にある学校へは通学はできないので、月曜の早朝6時に家から10分くらいのところに、学校のバスが来て学校まで送り届けてくれます。そして、金曜の午後にもその同じバスが100キロ圏内くらいのいくつかのポイントに生徒を送り届けます。

生徒たちは、高校時代5年間の寮生活を通して、生涯の友人を得ることになります。彼女たちの密接度を見ていると、羨ましい、の一言につきます。これだけ感受性の強い時期に、悲しいこと、嬉しいこと、苦しいこと、楽しいことを共有している事実が、彼女たちを「友人以上」の存在にしています。

さて、今日は、この彼女たちが経験している「コミュニティ・サービス」のことをご紹介しましょう。

南アの寄宿学校に在籍する高校生には、自分たちのコミュニティにどう関わるか、はたまた、女子高なので、「男子高校生との交流」やら、などのいろいろなイベントが用意されています。例えば、ソーシャル、と呼ばれるダンスパーティなどは、学校が主宰して、近隣の男子校、女子校の生徒たちが招待され、金曜か土曜の夜、7時から11時頃まで、DJも登場して、楽しい時間を過ごします。

ちなみに、こういうイベントにはもちろん300円程度の入場料も徴収され、学校側の別のプロジェクトの資金に使われたりします。

さて、翔子たち10年生の年間を通してのメインイベントは、「ボーグ・ボール」と呼ばれる公式なダンスパーティです。これは、フロア丈のドレスをまとい、ワルツを習い、最初のダンスはお父さんと娘がする、というかなり格式高いものです。

ただ、この「ボーグ・ボール」は、学校側としては、彼女たちにいかに、「大人の女性」としての自覚を持たせるか、という大きな目的があり、ただ単にきれいに着飾り、ダンスをして終わり、というシナリオでは進みません。
まず、ダンスのある週の1週間前の5日間。彼女たちは学校のグラン
ドにテントを張り、アフリカ1.jpgサバイバルな5日間を過ごします。寄宿生でなくても家には帰れません。寄宿生なら普段は学校側が食事はすべて用意するのですが、この5日間は彼女たちの自炊。普段、学校が、家族が用意する食事に慣れている彼女たちにとって、これはなかなか大変なことです。どうやら、ほとんど毎食、簡単にできるパスタなどになっているようで、悲鳴があがります。

そして、日中は、普段の授業を離れて、彼女たちの学校から30分くらい離れた地域に入り、「コミュニティ・サービス」というボランティア活動を行います。
アフリカ2.jpg彼女たちの学校のあるピーターマリッツバーグという地域は、クワズールナタール大学のある落ち着いた学生街なのですが、郊外に車をちょっと走らせるだけで、まさに未開発の「アフリカ」が目の前に広がります。

このボランティア活動の仕組みもなかなか興味深いものがあります。こういった活動をしたい学校やグループは、こういった地域のコミュニティと連携をし、企業から活動の資金を集め、実際の労働力として、自分たちのメンバーを派遣するのです。

ただし、これを企画運営するのは、学校ではありません。今回、このプロジェクトを仕切っているのは、African Exposure というコミュニティ開発の小さな組織でした。

つまりこういった活動が、きちんとしたシステムで行われやすいように、社会的にこういった組織にもきちんと運営資金が流れるようになっているのです。確かにこれはかなり効率のよいシステムです。こういった組織は丁寧に活動をしていれば、なにより大事なネットワークや、人脈が蓄積されていきますし、ただでさえ忙しい学校の教員が普段の業務以外の活動を強いられることもなくなります。

さて、今回彼女たちのコミュニティ・サービスは、タンダナニという地域にある小さな小学校を改良することでした。具体的には以下のプロジェクトを実行しました。

  ① 図書館を作る
  ② 外のトイレの前にある壁をペイントする
  ③ 教室の前の庭に花を植える

アフリカ3.jpgこの①の図書館に入れる本や資料も彼女たちが何カ月もかけて、皆から寄付を募り集めたものです。②のペイントも子どもたちも参加して、毎日にぎやかに行われていました。③の花もなかなか時間はかかりそうですが、普段はこういう学校ではここまで目が届きにくいところですので、子どもたちも嬉しそうでした。

私がさらに感心したのは、このAfrican Exposureという会社が、こういったプロジェクトをするにあたり、一般の企業にも声をかけ、彼らの社会貢献の一環として、例えば②のペイントにかかる費用などを負担してもらう仕組みを遂行していたことです。

今回の企業パートナーは、デロイトという世界的な法律事務所のピーターマッリツバーグ事務所で、彼女たちの活動に必要な資金はほとんどデロイトが負担してくれました。
学校側としては、もちろん自分たちの努力で、資金的アフリカ4.jpgにも負担することはあるのですが、企業からの寄付や負担の恩恵を受けることでかなり動きやすい活動になっています。

子どもたちは一夜にして大人になるわけではないです。だからこそ、学校、保護者、そして地域の大人たちが、協力して彼ら彼女たちの「大人への階段」を上がって行く準備をしていく過程は貴重なものです。

きれいなドレスをまとってダンスをする、ということは彼女たちの5年間の学生生活の中でもかなりの重大なイベントです。

でも、その前に、自分たちの足元に広がる社会の問題点を認識する、自分たちの恵まれている生活をもう一回見直してみる、といった具体的な活動は彼女たちのこれからにどんなに有意義なことでしょう。

そして、その連日の作業中にも大きな笑い声の絶えなかった彼女たち。とってもいい学生時代を送っています。